第5回連続講座の報告
「日本国憲法公布70周年記念 連続講座 日本が再び『戦前』にならないために
~平頂山事件に至る時代と今の時代を比較して~」
講師は一橋大学教授の吉田裕先生でした。
講演テーマは,「歴史の視点から ~大正デモクラシーと戦争」というものです。
この連続講座が好評だったため,数多くの聴衆の方に足を運んでいただき,誠にありがとうございました。
同時に,会場が非常に手狭になり資料が不足するなど,たいへんご迷惑をおかけしてしまったことについてお詫び申し上げます。
以下,講演内容の概要報告です。
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明治憲法は天皇にすべての権限が集中していました。内閣の中に軍隊がありました。しかし、参謀本部は内閣の外にあったのです。参謀本部の作戦司令官は天皇に直属していました。
統帥権の独立もありました。天皇の大権は議会の同意を得ずに行使することができます。国務大臣は天皇を補佐することになっていましたが、天皇は別に陸海軍を統帥することになっていました。参謀総長がこの補佐をするのです。さらにこの参謀本部と関東軍や連合艦隊などの「現地軍」との関係でいうと、参謀総長は直接現地軍に指揮・命令できないのです。現地軍は直接天皇の命令下にはいります。海軍は大海令、陸軍は大陸令というのがありました。1941年11月5日の大海令で、12月初旬に対米開戦を連合艦隊司令官に伝えるのです。内閣や参謀本部が直接現地軍に命令できないしくみになっていたのです。
さらに、明治憲法は国家機関が分立しているのが特徴です。各国務大臣は所管の事項について直接天皇を補佐する、となっていて、首相が直接各大臣に命令できないしくみになっていました。首相の権限が弱いのです。なぜこのようになっていたかというと国家機関を対立させるためです。衆議院と貴族院があったことも天皇大権の空洞化を恐れたためでした。
軍の暴走をとめられなかったのは、臨時軍事費の問題もあります。この臨時軍事費は一般会計と別になっていました。臨時軍事費はこまかい内容は明らかにされませんでした。海軍・陸軍・その他の項目があるだけでした。その中身はまったくあきらかにされていません。会計検査院の決算は審議なしで通過するのです。
1914年から1918年の第一次大戦の時の臨時軍事費として予算化されたものは、その後のシベリア出兵にまで使われます。1925年まで続いた北樺太占領にも使われます。1919年の三一独立干渉にも使われます。戦費として計上されたものを植民地に使うのです。日中戦争の戦費を対ソ戦、対米戦の準備に拡張して転用します。日中戦争の間に対米戦を準備していたわけです。
統帥権の問題ですが、法律は議会の同意がなければなりませんが、勅令は議会にかけなくてよいものでした。その勅令の中に軍令というのがあります。作戦にかかわるものなど軍事にかかわる勅令です。
軍縮が実現してくると臨時軍事費も議会の批判をうけるようになりました。「第一次大戦の臨時軍事費をなぜシベリア出兵に使うのか」「機密費の内容を明らかにしろ」などの質問がでるようになります。
明治憲法は発布の際に勅令が出ます。不磨の大典(永久に続く法典)となっています。だから改正する時も勅令でおこなう、となっているのです。憲法に瑕疵はない、ということです。神聖化されるのです。
陸海軍大臣はすべて現役の将軍でなければならない、ということになっていました。閣内に必ず2人の軍人がいるのです。内閣で軍のことをなんと呼んでいたか、というと、大正期には「わが国軍」でしたが、満州事変以降は「皇軍」となります。
民衆と地域を考えます。第一次大戦は総力戦と表現されました。国家のすべて(人的、経済・資源)を捧げるということです。世界的には、第一次大戦は悲惨な惨禍であり、戦争の違法化がすすみます。パリの講和条約やこれによってつくられた国際連盟の規約にも不戦が書かれます。1928年には不戦条約も結ばれます。日本はこの戦争に無理矢理参戦し、青島や南洋に出撃しますが、悲惨な体験はありません。第一次大戦で日本は五大国になりましたが、国民の文化にはあまり大きな影響はありませんでした。世界から火事場泥棒といわれたのです。日本は大戦の受益者でした。戦争はペイすることを学びました。
軍縮で4個師団が廃止されると配属将校を学校に配置して、学校教練をはじめます。士官学校もつくり、中学校で軍事教練をやって高学歴の兵士を養成し、若い将校を育成していきます。地域の青年団もこれに組み込まれます。大手のマスコミがこれに拍車をかけます。
それが、これらの戦時システムを戦後根本的な転換があります。日本国憲法です。システムには根本転換がありましたが、意識や歴史認識はどうだったでしょうか。戦後70年安倍談話や21世紀懇談会をみてみると、どうでしょうか。
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